美味しいケーキと寄り添う人がいる、地域の居場所 ~きままなスイーツカフェ~

オモ活コミュニティ

自分の住んでいる地域に、困ったときに相談できたり、頼りになる人がいるって心強いですよね。住民目線で近所のこと教えてほしかったり、ふと誰かと話したくなったら行ける場所。近くに住む人たちが集まってあれこれおしゃべりしている、そんなところがあったら、ホッとできるのではないでしょうか。
東京都世田谷区で自宅を開放し、そうした地域の居場所づくりをしているコミュニティカフェがあります。「きまま」という名前のついた3つのカフェ。さて、どんな居場所なんでしょうか?主宰されている、岩瀬はるみさんにお話しを伺いました。

きままなスイーツカフェ
ケアラーズカフェKIMAMA
オレンジカフェKIMAMA*
〒156-0054 東京都世田谷区桜丘5-15-11
https://www.facebook.com/ki.mama.na.sweets.cafe/
https://www.facebook.com/carerscafe.kimama/
営業時間はこちらを参照
*オレンジカフェKIMAMAは桜丘区民センター1F談話室




住み開きのカフェを地域の居場所に

ここは、小田急線千歳船橋駅から数分の閑静な住宅街。その一角にある、一軒家のお宅の玄関横に「本日のケーキ」と書かれた黒板が掲げられています。この日は「きままなスイーツカフェ」のオープン日。美味しいケーキとおしゃべりを目当てに、赤ちゃんを連れたママ達やお母さん世代の人達など、近所の方々がやってきました。

住み開きでカフェを運営する岩瀬さんのお宅。オープン日には黒板が掲げられる

この家に住む岩瀬はるみさんは、自宅の一部を地域に開放した「住み開き」というスタイルで、3つのカフェを運営しています。

毎週火曜日には子育て世代から高齢者まで誰もが集える「きままなスイーツカフェ」、毎月第3木曜日には家族を介護している人達が集う「ケアラーズカフェKIMAMA」、毎月第2土曜日には認知症とその家族のための「オレンジカフェKIMAMA」※と、地域の人々が集えるいこいの場を提供しているのです。
※オレンジカフェKIMAMAは桜丘区民センターで開催

3つのカフェを運営する岩瀬はるみさん

最初にオープンしたのは「きままなスイーツカフェ」で、すでに14年以上も続けているそう。その後「ケアラーズカフェKIMAMA」「オレンジカフェKIMAMA」と続くのですが、こうしたコミュニティカフェを始めたきっかけは何だったのでしょう?

岩瀬さん
『カフェを開く前は、ケーキ教室をやっていたんです。最初は趣味ではじめたのですが、ハマってしまいあれこれ研究して、家族や友だちに食べてもらったり、PTAの集まりなどに持っていったらほめられて。そのうちに、教えてよと言われるようになり、区民センターでケーキ教室を始めました。

その教室が10年続いたの。もう教えることないからそろそろ…と思ったら、生徒さん達から「だったらお家をサロンにしてください」って言われて。区民センターの予約が取れないとき、自宅で教室をやっていたんです。ここいいわよねと生徒さんから好評だったので、だったらと思い切って、自宅をカフェにしました。』

なるほど、カフェのケーキが美味し過ぎるわけが分かりました。それぞれのカフェでは、岩瀬さんの手作りシフォンケーキに、紅茶やコーヒーなどの飲み物がセットになっています。「きままなスイーツカフェ」では季節のケーキというメニューも用意されていて、大人気。テーブル上とフロアには美しいお花が飾られ、とっても素敵な空間で美味しいケーキをいただけます。

美しいお花も名物のひとつ

こうした素敵な自宅カフェですが、ふつうのカフェと何が違うのでしょう?

岩瀬さん
『お店構えてカフェをやると、商売中心になっちゃうような気がして。それまで地域で築いた友人知人関係を大切にしたかったので、収支がトントンで成り立つ自宅のリビングで、地元の人を対象としたコミュニティカフェにしました。

コミュニティカフェというのは、地域の人々が集まれる居場所というのが目的。ここに来ると誰かがいて、おしゃべりできます。ふつうのカフェだと、そこで会ったお客さんとはあまりしゃべらないでしょう。ここでは私とおしゃべりしたり、お客さん同士でもいつの間にか話してるわね。

赤ちゃんを連れたママさんとか、高齢の方とか、家族の介護をしている方とか、ちょっとしんどいことがある人も、そうでない人も、誰もが気軽に来て、ケーキとお茶を楽しみながらほっとくつろげる。そんな居場所になれたらいいなと思ってやっています。』

みんなが集う地域のオアシス「きままなスイーツカフェ」

地域の居場所という目的は同じであれど、3つのカフェにはそれぞれ特徴があります。「きままなスイーツカフェ」はどんなものなのでしょう?

岩瀬さん
『誰もが気軽に集えるたまり場、と言っているんだけど、若いママさんから近所の方や友人など、いろいろな方が来られます。近くに児童館や区民センターがあるので、そこへ来る赤ちゃん連れのママも多いわね。

赤ちゃんを連れていると、行ける場所が限られてくるでしょう。ここだと、赤ちゃんを床に寝かしつけられるし、オムツ替えも気楽にできるから、入れ替わり立ち替わり毎週のように来ていますよ。ほかのお客さんも皆、赤ちゃんがいると笑顔になりますね。』

私が伺ったときも赤ちゃんが3人いて、やはり笑顔になりました。そして、初めてお会いした方ともお話しがはずみます。テーブルで一緒になったAさんは、趣味で押し花をされていて、色とりどりの押し花カードをたくさんお持ちになっていました。その日が誕生日だった私に、なんとそのカードをプレゼントしてくれたんです。大感激。

(左)ホッとひと息つくママさん達 (右)いただいた押し花カード

ケーキのメニューは2種類で、シフォンケーキと季節のケーキ。この日は和栗のモンブランが用意されていました。岩瀬さんのケーキは本当に美味しいんです!ケーキのメニューは毎回変わりますので、いつ行っても楽しめますね。

ところで、カフェをやっていると自宅にいろんな方がやって来ますが、知らない人が来て怖い思いをされたことありませんか?

岩瀬さん
『とくにないの。黒板は出しているけど玄関を閉めているのでね、最初の一歩を踏み入れるのが、敷居が高いかもしれません。一回来ちゃえば、ぜんぜん気軽なんだけどね。
一度来ても雰囲気が合わない人は、次から来ないですね。だからこれまで大きなトラブルはありません。』


介護家族がホッとできる場「ケアラーズカフェKIMAMA」

「きままなスイーツカフェ」を運営して10年、岩瀬さんは「ケアラーズカフェKIMAMA」をオープンしました。“ケアラー”とは家族の介護をしている人のことをいい、その人達がほっとひと息つける場を作ったのです。何がきっかけだったのでしょう?

岩瀬さん
『カフェに来てくれていた皆さんの話題がね、子育てから介護に移ってきたの。時の流れですね。

ケーキ教室の生徒さんで、きままなスイーツカフェの常連さんだった方が「実はあのとき親の介護中だったんです。ここにきてお茶とケーキ食べながら皆さんとおしゃべりするのが、唯一の気晴らしになってました。」っていうのを聞いたりね。自分もそろそろ介護世代になったし、そういう人のために何かできないかなあと思ったのがきっかけです。』

なるほど、必然というか、求められて自然の流れで、という感じなのですね。それまでは個人で運営されていましたが、これを機に市民活動団体を立ち上げたそうです。

岩瀬さん
『個人でやると、広報に限界があるって分かったんです。チラシとかなかなか置いてもらえなくてね。それで「ZUTTO-KOKO」という市民活動団体を立ち上げました。ずっとここで最期まで安心して暮らしたいよねって想いを、そのまま名前に。それと同時に、世田谷区の「地域共生のいえ」に登録しました。』

市民活動団体は最低5人必要とのこと。そこで、昔PTAの時代からつきあいのある友人や地域活動を活発にされていた近所の方、傾聴ボランティアさん、40年来の信頼できる友人などで始めました。その後も、手伝いたいと言ってくれる方が次々あらわれ、メンバーが増えているのだそうです。

また、地域のまちづくり活動が定期的におこなわれ、地域のあらたな絆を生み出す場として世田谷区の「地域共生のいえ」に登録されたことで、広報誌などにも取り上げられ、地域の人々に知られる機会がいっそう増えました。

その「ケアラーズカフェKIMAMA」にはどんな方が来ていますか?

岩瀬さん
『家族の介護している最中の方を中心に、介護を終えた方や専門職もみえますね。最近では育児と介護を同時に担うダブルケアラーさんもいらっしゃいます。スタッフには訪問看護師や傾聴ボランティアがいるので、健康に関することや心配事を相談したり、日ごろの想いなんかを熱心に話されていますよ。

雰囲気はとっても明るいの。ケーキを食べながらお茶を飲みながら、家のリビングにいるような感じだから話しやすいんじゃないかしら。来ているのはみな介護経験者だから、初めて会った人でも話がはずみますね。

和やかにおしゃべりを楽しめる雰囲気のリビング

あと、常連さんがね、介護が大変なご友人を連れてくることもあります。連れられてきたある方、最初はほんとに暗いお顔をしていたの。ご主人の状態がシビアで、精神的にもまいっていたようで。それが毎回来るたびにだんだん明るくなって、表情が良くなっていって「あなたに話を聞いてもらえて良かった。ここがあって本当に良かった。」って言ってくれて。そのときは、やってて良かったなって思いました。』

まさにその方にとって、ホッとできる場だったのですね。
それからケアラーズカフェKIMAMAでは、勉強会やちょっとしたお楽しみイベントもされているのですね?

岩瀬さん
『専門家を迎えて、介護保険のことや薬のこと、医療の事前指示書などの勉強会をやっています。難しいことや日ごろの疑問なんかを気軽に質問できるので、好評ですね。あとはアロマでナチュラルコスメづくりをしたりね。アロマはとても人気がありますよ。』

専門家を講師に勉強会も

認知症を支え地域と交流する「オレンジカフェKIMAMA」

お次は「オレンジカフェKIMAMA」についてお聞きしてみましょう。まずは“オレンジカフェ”ってどういう意味なのですか?

岩瀬さん
『“認知症カフェ”のことをいいます。厚生労働省が掲げた「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」からの由来でしょうね。オレンジカフェは認知症の本人とその家族、地域住民、専門職が集う場、認知症の人を支えるつながりを支援する場なんですよ。

常連さんや友人の親御さんが認知症になったり、私の親も今思えばそうかなというように、認知症が社会問題化してきたでしょう。これも時の流れだと思って、2015年にスタートしました。

認知症の方とそのご家族、地域の人が交流するオレンジカフェKIMAMA

オレンジカフェって一人じゃできないの。専門職やスタッフが何人か必要なので、友人や知人で興味を持ってくれた人などに協力してもらっています。みんなとても優秀で、信頼できる人達。あとね、スタッフの子どもで6歳の男の子も。とってもいい仕事してくれていますよ(笑)』

岩瀬さんの素敵パワーが良い人を引きつけるのでしょうね。オレンジカフェ自体はどんな雰囲気なんでしょうか?

岩瀬さん
『これまでは、近くの介護施設のコミュニティルームで開催していました。その施設に入居されている利用者さんを中心に、ご家族や地域の方も。ここでもケーキとお茶をお出しして、和やかにおしゃべりします。

アクティビティもやっていてね、アロマハンドトリートメントやカードを使ったゲーム、ミュージカル歌手と作曲家のコンサートなどを企画し、楽しんでいただいています。プロのカメラマンとヘアメイクを呼んで、施設で利用者さんのファッションショーをやったときもありました。皆さんほんとにいいお顔をしていましたよ。』

クリスマスリース作りなどのアクティビティも

とっても楽しそう。最近、会場が近くの区民センターに移ったそうですね?

岩瀬さん
『はい、ちょうどタイミングが良く、区民センターでやれることになりました。場所柄、これまで以上に地域の人達が来やすくなると思います。ケーキ食べたりお茶飲んだりしながら認知症のご本人と触れあえば、自然と理解が進みますよね。えっ、認知症って普通の人とあまり変わりないんだ、とかね。軽度の方はほとんど変わらないですから。

2025年には高齢者の5人に1人が認知症になるといわれています。オレンジカフェKIMAMAで実際に体験して理解を深めてもらい、認知症を支えるまちづくりへと少しでも力になれればいいなって思います。』

夢はごちゃまぜのユニバーサルカフェ

3つのカフェ、どれも岩瀬さんの状況と時代とがリンクしてできていたんですね。岩瀬さんの想いやお人柄、仲間、ケーキの腕前、センスがよいハーモニーを奏でていらっしゃるのではないでしょうか。

さて、カフェの今後の展望などは、どのようにお考えでしょう?

岩瀬さん
『いつも開いている、というのが大事だと思ってね。「ここはずっとやってるから、時間があると来たくなる」という声や、「今は忙しいけど、落ち着いたらぜったい行きたい」って言ってくれてる人がいるので、開けてやっていることに意味があるのかなと。だから、元気な限り続けようと思っています。

ほんとはね、ひとつにしたいんですよ。健常者も障害のある人も、認知症も、若者も、子どもも、みんなが集まってる場所っていいじゃない。いつかユニバーサルカフェみたいのができればいいなって思ってるんです。それが一番自然でしょう。誰が来ても排除しないって。

時間はかかるかもしれない。認知症の人が一緒とか、障害のある人が一緒となると、周りの意識が育たないとね。まずはオレンジカフェKIMAMAなんかで、認知症のご本人や家族の方と地域住民が交流してほしいですね。
それを足がかりに今後も、実現に向けていろんなことにチャレンジしていきたいです。』

ユニバーサルカフェ、いいですね。岩瀬さんなら時の流れを味方に、きっと実現するのではないでしょうか。今後も楽しみです。

岩瀬さんが運営されているようなカフェ、近所にあったら嬉しいですよね。ふだんあまり気に留めていないかもしれませんが、じつは各地域でこうしたコミュニティカフェが増えつつあります。

お近くにお住まいの方はKIMAMAへ、そうでない方は近くのコミュニティカフェを探して、ぜひ行ってみてはいかがでしょう。これまでとはちょっと違った地域の顔に、触れられるかもしれません。

★★★★★★★★

きままなスイーツカフェ

開催場所: 東京都世田谷区桜丘5-15-11(岩瀬さん宅)
TEL:    03-3439-1650
営業時間: 毎週火曜日 11:00~17:00
https://www.facebook.com/ki.mama.na.sweets.cafe/

ケアラーズカフェKIMAMA
開催場所: 東京都世田谷区桜丘5-15-11(岩瀬さん宅)
TEL:    03-3439-1650
営業時間: 毎月第3木曜日 13:00~16:00
https://www.facebook.com/carerscafe.kimama/

オレンジカフェKIMAMA
開催場所: 東京都世田谷区桜丘5-14-1(桜丘区民センター1階談話室)
営業時間: 毎月第2土曜日 13:30~15:30
*お問い合わせは岩瀬さん宅まで



※記事内容は取材日時点のものになります。必要時にはお問合せ等でご確認ください。
(取材日:2017年10月)






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